みなさんは、「外国人労働者の雇用労務責任者」というものを聞いたことがありますか?
こちらは、外国人職員を受け入れて雇用している企業は、こういった名前のポジションを設けなければならないとされているものです。
先般、報道で、外国人雇用について管轄している厚生労働省が、この「外国人労働者の雇用労務責任者」の講習会を設け、育成に注力し、外国人雇用について啓蒙に取り組んでいく動きをしている、とありました。
さて、この「外国人労働者の雇用労務責任者」とは何なのか?
また、厚生労働省は、どのような意図、目的を持って、この取り組みに乗り出したのか?
みていきましょう。
どういう目的で、こういう講習の取り組みを始めたんでしょう?
外国人職員がこれだけ増えてきて、これからさらに増加が確実な中、今回の厚労省の動きは、今後需要が広がっていく大切なトピックになりそうですね。
「外国人雇用労務責任者」とは?
それでは、まず「外国人労働者の雇用労務責任者」とは何なのか?みていきましょう。
厚生労働省は、外国人職員を雇用している企業に対し、”かくあるべき”という指針を発出しています。
厚労省の外国人雇用企業に対する指針の中で選任を求めている
それは、「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」というタイトルの指針です。
その指針の第六において、厚生労働省は、下記のように指導しています。
〜「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」第六〜
事業主は、外国人労働者を常時十人以上雇用するときは、この指針の第四に定める事項等を管理させるため、人事課長等を雇用労務責任者(外国人労働者の雇用管理に関する責任者をいう。)として選任すること。
外国人労働者を10人以上雇用する企業は、人事課長などの役職者を「外国人労働者の雇用に関する労務責任者」に選任するように、指針で明確に指導されているのです。
選任する者も、企業内の人事管理に従事している課長クラスが望ましいと、具体的に明示もされています。
意外と知らない企業も多そうですね…。
外国人雇用企業は、元々の事業で精一杯で、このような外国人雇用の特別な制度や指針などに詳しくない企業も多いでしょう。その雇用をサポートしている監理団体や外国人材紹介会社の担当者がしっかり注意を払ってアナウンスしているかどうかですね…。
選任の届出は?
なお、こちらの選任について届出義務はありません。
しかし、このように指針で明確に指示がある以上、選任しておくようにしなければなりません。
また、冒頭に述べたように、これから厚労省が、この「外国人労働者の雇用労務責任者」について育成に注力していく動きをみせているなか、外国人職員を雇用している企業については注目されるポイントになってくるでしょう。
まだ選任していない企業は、適切な役職クラスの職員に「外国人労働者の雇用労務責任者」という役職名を定めておくべきです。
もしまだでしたら、人事担当の課長の方に、「外国人労働者の雇用労務責任者」という役職も兼務という形をとり、何かに定めておきましょう。
外国人労働者の雇用労務責任者の育成事業がスタート
厚生労働省が、この「外国人労働者の雇用労務責任者」の育成事業を新たにスタートする、という報道がありました。
この取り組みの狙いとは?
外国人労働者は、令和3年10月末時点で、172万人にも達しています。
外国人を雇用する事業所は、28万にものぼります。
コロナ禍で入国できない状況であったにもかかわらず、増加しています。
当記事の執筆時点である2022年11月現在、事実上ほとんど水際対策が解禁されているような状態で、これまで入国できずに母国で日本語教育など日本での就労準備をしていた外国人が次々と入国してきます。
おそらく来年でる2022年の上記のような統計は、これまで溜まってた分が一気に追加されるわけですから、著しい伸びをみせることでしょう。
このように、外国人職員が増え、その外国人職員を雇用する企業も増加し続けている状況下ですが…。
外国人雇用企業の人事担当者に外国人材の採用ノウハウが不足していたり、外国人材の受け入れ手続きに関する知識が不足していたりして、不安も大きい状態です。
受け入れをサポートしている監理団体、登録支援機関、外国人材紹介会社にそれを依存している状態の企業も多い状況です。
無理もありません。外国人材に関する制度や法律などは、特殊性が高く、なかなか企業にとっては分かりにくいものが多いのではないかと思います。
監理団体、登録支援機関、外国人材紹介会社が言ったことをそのまま鵜呑みにするしかない状況でもあります。
しかし、コンプライアンス的にそれではやはり不安な状態でもあります。
外国人雇用企業の担当者も、そういった特殊性のある外国人材の雇用労務について知識をつけておく必要があります。
今回の厚労省の取り組みは、まずはこういった狙いが強いでしょう。
外国人労働者の職場定着の促進
外国人労働者の職場への定着には課題がある現状です。
例えば、技能実習生の失踪者数は、例年高い水準を維持しています。
例えば、令和3年は、技能実習生の失踪者数が、7167名もいます。
1日につき約20名の実習生が毎日のように失踪している換算になります。
私たちがいつも普通に過ごしているこの時間にも、この日本のどこかで失踪せざるを得ないほど追い詰められている実習生がいるわけです。
これには、雇用する企業に対する外国人を雇うということとは?という、いわば講習のようなものが必要だろうと思います。
外国人を、日本人と同じように考え、日本的な画一的な既成概念による基準で良し悪しを判断してしまうことが原因なのではないでしょうか。
まだ、講習カリキュラムはこれから作られるということですので、どういう事項を教える講習になるのかは分かりませんが、報道ですが「外国人の職場定着の促進」を掲げるのであれば、このような異文化理解の促進も入ってくるかもしれませんし、それが入ってくることを期待したいところであります。
雇用管理改善への取り組みを
また、特に、技能実習生の受け入れ企業は、雇用管理に課題が多いといわれています。
労働基準監督機関が、技能実習生受け入れ企業に対し実地の調査を行ったところ、なんと7割の事業所で労基法違反が認められています。これは毎年ですから、驚異的な違反率です。
いわば、技能実習生を受け入れているほとんどの企業は、何かしら雇用管理に違反項目を抱えており、課題が多い状態であるといえます。
こういった雇用管理の意識を高めるという狙いも、今回の講習にはあるでしょう。
講習のスケジュール
報道では、23年度中に講習カリキュラムを策定する、ということですので、2023年4月〜2024年3月の期間に策定され、2024年春以降に順次実施されているくのではないかと思われます。
2024年以降は、こういった外国人を雇用する企業の雇用管理の意識の向上というテーマが強くなっていくでしょう。
また、技能実習制度と特定技能制度が見直され一本化され新しい制度が開始するのではないかという動きもありますね。
上記のように、法務省の方で、特定技能と技能実習の制度の在り方を検討する勉強会を定期的に開催し、議論を積み重ねていっています。
もしかすると、2024年以降の外国人雇用管理の講習事業も、こういったスケジュール感に合わせてくることになるかもしれませんね。
講習会の開催予定地域
「外国人労働者の雇用労務責任者の育成事業」の講習会は、まず5つの地域で限定的に試験的に行ってみて、そこからブラッシュアップしていって、他の自治体へと横展開を図り、拡大していくとのことです。
その、まず限定的に行う5つの地域とは、北海道・群馬・福井・岐阜・鹿児島です。
東名阪や主要都市部からかなと思いきや、地方から開始していくということに、逆に本気度が伝わってくるような気がします。
なぜ、この5つの地域を選んだのかというのは、外国人材の受け入れと定着促進に特に積極的な地域だから、ということです。
ちなみに、各都道府県の外国人労働者の分布図が下記になります。